映画や小説の多くに共通する物語構造として知られる「ヒーローズジャーニー(英雄の旅)」は、神話学者ジョーゼフ・キャンベルが提唱したとされる枠組みだ。主人公が日常を離れ、試練を経て変化を遂げ、元の世界に戻るという構成は、実は営業トークの設計にも応用できるといわれている。ここで重要なのは、営業担当者自身を主人公にするのではなく、顧客を物語の主人公に据える視点である。

ヒーローズジャーニーの基本ステップと営業への当てはめ

代表的な段階を営業文脈に置き換えると、おおむね次のように整理できる。

  • 日常(現状維持のままでよいと感じている状態)
  • 冒険への誘い(課題やリスクへの気づき)
  • 抵抗・葛藤(変化への不安、社内調整の壁)
  • 導き手との出会い(営業担当者や製品との接点)
  • 試練と変化(導入・運用の過程)
  • 帰還(変化後の新しい日常)

営業担当者は「導き手(メンター)」の役回りに徹し、あくまで主人公である顧客を成功に導く支援者として振る舞う姿勢が求められる。

なぜ顧客を主人公にすべきか

営業担当者や自社製品を主役に据えた説明は、聞き手にとって「他人の自慢話」に映りやすい。一方、顧客自身が主人公となる物語構成では、聞き手は自らの未来を重ね合わせやすくなり、当事者意識を持って話を聞く傾向が強まるとされる。

ポイント:営業担当者は主人公ではなく「導き手」。主役はあくまで顧客企業とその課題である。

役割ヒーローズジャーニーでの位置づけ営業での対応
主人公変化を遂げる者顧客企業・担当者
導き手助言・支援を与える者営業担当者
試練乗り越えるべき壁導入・運用フェーズの課題

実務での使い方

商談の冒頭で「多くの企業様が、最初は現状維持でよいと感じつつも、ある出来事をきっかけに検討を始められます」といった導入を用いると、顧客が自分の状況を物語の一部として捉えやすくなるだろう。ただし、大げさな演出は不自然さにつながるため、あくまで自然な会話の延長線上で用いる工夫が必要だ。

よくある質問

Q. ヒーローズジャーニーはどんな業界の営業にも使えますか。 A. 検討プロセスが長く、意思決定に複数の関係者が関わるBtoB領域で特に機能しやすいとされる。

Q. 顧客を主人公にすると、自社の強みをどう伝えればよいですか。 A. 自社は「導き手」として、顧客の試練(課題解決)を支える役割であることを一貫して伝えるとよいだろう。

Q. この構成をプレゼン資料にも反映できますか。 A. スライドの流れを「現状→気づき→葛藤→解決→変化後」の順に組むことで、資料全体に物語性を持たせやすい。

Q. 演出が過剰にならないための目安はありますか。 A. 事実に基づいた表現にとどめ、誇張した形容詞を多用しないことが、不自然さを避ける現実的な基準になるだろう。